E869120's Blog

アルゴリズムや競技プログラミングに関する記事を書きます。

「高校数学の基礎が150分でわかる本」にかけた思い

1. はじめに

こんにちは、東京大学 3 年の米田です。この度は、ダイヤモンド社から『高校数学の基礎が 150 分でわかる本』という書籍を出版させていただくことになりました。高校数学の基礎を図解で超わかりやすく説明した本です。

本稿では、この本を書いたきっかけや、この本に懸けた思いについて記したいと思います。

なお、本の内容紹介につきましては、以前こちらの記事に書かせていただいたので、まだ読んでいない方はぜひお読みください。

 

2. 前提:数学はあらゆる人が身に付けてほしい

執筆のきっかけについて書かせていただく前に、まずは数学に対する僕の考えを述べておきます。僕は、高校数学の基礎くらいのレベルの知識は、あらゆる日本人が身に付けるべきだと思っています。

この理由としては、仕事の幅が広がる、論理的思考力が身につくなどたくさんあるので、詳しくは発売日前後にブログにまとめようかと思慮しています。しかしその中でも代表的な理由の一つとしては、生活していくうえで便利であることが挙げられます。

以下に例を 3 つ示します。「どんな場面で数学が使えるのか」のイメージだけつかめれば大丈夫です。*1

 

例1:宝くじ (本の p.85 の類題)

ある宝くじを 1 枚買うのに 300 円かかります。当たりの賞金と確率が以下のとおりであるとき、宝くじを買うのは得ですか。損ですか。

  • 1 等:賞金 1 万円/確率 1%
  • 2 等:賞金 300 円/確率 20%
  • 3 等:賞金 0 円 (ハズレ)/確率 79%

もし高校 1 年で習う「期待値」の計算方法を知っていれば、答えがわかります。

期待値を計算すると、平均して (10000×0.01) + (300×0.2) + (0×0.79) = 160 円の賞金しかもらえないとわかるので、この宝くじを買うのは損であると考えられます。

 

例2:データ分析 (本の p.96 の類題)

A 君と B 君の月別営業成績は以下の通りです。A 君と B 君のうちどちらが、安定した成績を出せていると考えられますか。*2

  1月 2月 3月 4月 5月
A君 350万円 400万円 600万円 100万円 550万円
B君 300万円 250万円 750万円 500万円 200万円

もし高校 1 年で習う「標準偏差」の計算方法を知っていれば、答えがわかります。

計算過程は省略しますが、A 君の成績の標準偏差は約 176 万円、B 君の成績の標準偏差は約 202 万円であるため、A 君の方が安定しているといえます。*3

 

例3:投資 (本の p.55)

あなたは今 1000 万円を持っていて、上手く投資をすると年率 10%、つまり 1 年に 1.1 倍の割合で所持金を増やすことができます。このとき所持金は、

  • 1 年後には 1000×1.1=1100 万円
  • 2 年後には 1100×1.1=1210 万円
  • 3 年後には 1210×1.1=1331 万円

と増えていきますが、果たして所持金が 10 倍の 1 億円になるのは何年後でしょうか。

もし高校 2 年で習う「対数 log」を知っていれば、答えがわかります。

答えは「1.1 を何乗すれば 10 になるか、つまり  \displaystyle \log_{1.1}10 」であり、これを電卓で計算すると約 24.15 なので、25 年後には 1 億円を超えている、ということが分かります。

このように、数学を学ぶメリットはたくさんあるため、僕は「高校数学の基礎」くらいの知識は、すべての日本人が身に付けるべきだとすら思っています。

 

 

3. 本書を執筆したきっかけ*4

しかし、数学に苦手意識がある人でも知識を身に付けられる本は、それほど多くありません。実際、僕がいくつかの本を読んだところ、国内で出版されている数学の本の多く(体感 9 割)は、残念ながら以下のいずれかに当てはまっています。

  • 難しくてかなりの読者が脱落してしまう
  • イラストや会話などの雰囲気でわかった気にはなるが結局身に付かない

そこで僕は、もしどちらにも当てはまらない最強にわかりやすい本を出版できれば、世の中の役に立てるのではないかと思いました。これが執筆を決めたきっかけです。

 

4. どう「わかりやすい本」を目指したか

ところが、前述のどちらにも当てはまらない、最強にわかりやすい本を書くのは全く簡単なことではありません。そこで拙著『高校数学の基礎が 150 分でわかる本』では、最強にわかりやすい本に仕上げるため、以下の 4 つの工夫を施しました。

  • 250 個以上のフルカラーの図
  • 数学が役立つたくさんの実用例
  • 中学レベルの知識から丁寧に解説
  • わかった気で終わらせない「穴埋め式演習問題」

なお、フルカラーの図については以下の紙面をご覧ください。図なしの見開きページがほぼ存在しないため、数学アレルギーの人でも抵抗感なく読み進めることができます。はじめて数学を学ぶ方、学び直しの方の 1 冊目の本として最適です。

 

5. おわりに - 本書はなぜ 200 ページか

最後に、本書を執筆する上で迷ったことを 1 つ記したいと思います。これはページ数をどれくらいにするかです。実際、本書の企画時には、大きく分けて以下の 2 つの選択肢がありました。

  • 500 ページで、高校数学のほぼ全部をわかりやすく解説する(語りかける高校数学などが例)
  • 200 ページで、高校数学の基礎に絞ってわかりやすく解説する

しかし長考の末、僕は後者の方を選ぶことにしました。なぜなら、本が長すぎると読む上での抵抗感が出てしまい、本来のターゲット層に届かなくなるのではないかと思ったからです。

ですので、本書は大体 3 時間程度で読めるようになっています。忙しいビジネスパーソンでも気軽に読めますので、興味のある方はぜひご購入ください。


本記事は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。大学の期末試験が迫る中、90 分で書いた乱文ですので、文章のクオリティはご容赦いただけると幸いです。

*1:問題の答えを理解する必要はありません

*2:なお、営業成績の平均は、A 君と B 君両方 400 万円です

*3:もちろん「有意差」といえるほどの大きな差はないですが、これは大学レベルの話なので本稿では考えないことにします。

*4:正確には、ダイヤモンド社からの執筆オファーを受けた理由と言うのが正しいです。